部活が終わり、私は家に帰ろうとしていた。
まだ大吾のあの囁きが耳に残っている。
頭の中でもう一度よく思い出してみる。
「また明日も来いよな・・・」
きゃー!何言ってんのアイツ!
一人でテンションが上がっていた。
家に着いた。
部屋に戻って、ふと携帯を見ると靖彦からメールが来ていた。

『今すぐ■□公園に来い』

最終話 雨の公園 

あんな乱暴な口調のメール、初めてだった。
いつも靖彦ならどんなに急ぎだったとしても
『今すぐ来てぇ!』
とか、そんな感じなのに。
何だか怖くなった。
急に靖彦のことを思い出すと、背筋がゾッとした。
それ以上に、靖彦のことを忘れ
大吾とのことに溺れていたこと自分の方にゾッとした。
携帯を握り締め、私は家を出た。
「ちょっと、沙恵〜。さっき、男の子が・・・って沙恵!?何処行くの!?」
母の声も聞かずに私は家を出て、自転車にまたがった。
そして公園に向かった。
もうこの時から雨はかなり激しく降っていた。

数分後。

私が到着した公園には既に靖彦が待っていた。
「や、靖彦・・・ごめん、待たせちゃったみたいで」
「あぁ、気にすることないよ。呼び出したこっちが悪いんだし。
 っつーか早くこっち座って」
「あ、うん・・・」
明らかに口調が冷たい。
こんなに冷たく言われたのは初めてである。
もしかして、気付かれたのでは・・・?
最悪のケースが予想されたが、私は靖彦の一言で安心出来た。
「今日元気なかっただろ?何かあったんだろ?」
ほっ、靖彦はただ心配してくれてただけなんだ。
良かった・・・
「ううん、何もないよ・・・本当に。明日からはもう大丈夫。
 心配しないで・・・」
そう言うとプツンと会話が途切れた。
え?私、今何かおかしいこと言った?
靖彦の顔を見ると、靖彦は今までにない程恐ろしい顔をしていた。
「じゃああの男とは今日で別れたってのかよ?」
「・・・!」
「気付かないとでも思った?保健室から出るところ、偶然見たんだよ」
「・・・」
「何か言えよ、沙恵。なぁ。もう俺のことは好きじゃなくなっちゃったのか?
 なぁ、沙恵・・・言ってくれよ・・・」


私は
何も言うことが出来なかった。
何と言えば良いのか分からなかった。
そして、うつむいていた。
そんな私を見て、靖彦は本当に傷ついたみたいだった。
「・・・そうか。お前はアイツのことが好きなのか」
「・・・」
「俺とアイツ、どっちが好きなんだ?」
「・・・」
「なぁ、沙恵。これだけは答えてくれよ。」
「・・・」
「頼む・・・」
靖彦が頭を下げた。
私は、もう正直に言おうと思った。
そして、正直に言った。


「どっちも・・・好きなんだよ・・・」
「え?」
「靖彦も三浦君もどっちも好きなのっ!
 こんなのいけないって分かってるけど・・・
 でも・・・!」

何だか泣いてしまいそうだった。
いや、泣いていた。
涙が頬を伝っていた。
靖彦も又泣いていた。
相当心を痛めたみたいだ。
そして
「最後に・・・お願いだ・・・」
そう言って靖彦が私をそっと抱いた。
私も靖彦を抱いた。
二人共泣きながら泣いていた。



悪いのは全部私なのに。




その時、最悪のケースが起こった。




「・・・沙恵」
公園の入り口に大吾が立っていた。
私が靖彦に抱かれながら、目を開くと
靖彦の背中の向こうに大吾が立っていた。


わけが分からなかった。
何故大吾までもが公園に居るのか分からなかった。



大吾も又、私達を見て心を痛めたみたいで、
大吾は自転車にまたがりスピードを上げた。
そして、すぐに何処かへ消えてしまった。
私は靖彦に抱かれたまま、無言で心で止めた。

待って、いかないで、大吾。


待って待って待って待って待って待って待って・・・


しかし、大吾は一向に止まる気配を見せなかった。



大吾が


居なくなってしまった―――


そんな脱力感にみまわれた ちょうどその時


靖彦の体が離れた。


「じゃあ・・・俺・・・もう行くから。
 
 今までありがとう・・・沙恵・・・!」


そして、靖彦までもが何処かへ行ってしまった。


声が出なかった。


靖彦を止める声が出なかった。








私は







大吾も






靖彦も








止めることが出来なかった。







もう








二人共何処かへ行ってしまった。
押し寄せる孤独感。
悪いのは全部私なのに・・・私なのに!


私は大声で泣いた。


そして叫んだ。


「どうして私なのっ。どうして私なのっ。」


雨が降ってくる、空に向かって叫び続けた。



「どうして私なのっ。どうして私なのっ。」


誰も答えてはくれない。


分かっているけど


「どうして私なのっ。みっちゃんも久美も尚美も居るのにっ。」


涙と雨で私の顔はぐちゃぐちゃになっていた。


「どうして私なのっ。どうして私なのっっっっっ・・・!」




ズブ濡れの服の私を




そっと優しく抱き締めてくれる人も




馬鹿にしながら、手をさしのべてくれる人も





私にはもう居なかった。

end

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