運命の人は一人じゃない。
そうだとしたら・・・

いつも安らぎと幸せを与えてくれる、同年代の男。
いつも楽しさと刺激を与えてくれる、年下の男。
貴方ならどちらを選びますか?


一話 別れの時 最初の出会い


「沙恵!お待たせ。ちょっと先生に呼び出されててさ」
走ってきたみたい。息が少し切れてる靖彦。
「へぇ〜。どうせ進路のことでしょ?もっと上に上げろ・・・っていう」
もうみんな帰ったんだろうか。
グラウンドからする、下級生の部活の声しか聞こえない。
「さーすが沙恵。よく分かったなぁー。まだ何も言ってねぇのに」
頭をポリポリと掻く靖彦の顔は何だかもう見慣れた。
見慣れてるんだけど、そんな靖彦が可愛い。
「当たり前でしょ。あたしだってそう思うもん」
「・・・」
「志望校・・・変えなよ」
付き合ってもう4年。
私達は、今進路について考えなければならない。
私と靖彦が付き合い始めたのは小学校6年の時。
靖彦が急に「好きです!付き合って下さい!」っていう、
今でも思い出すだけで恥ずかしくなる告白によって
私達は結ばれた。その時、あまり靖彦のことが好きじゃなかったんだけど。
彼氏が欲しいってわけでもなかった。
でも、断ったら可愛そうな気もするし、別に拒否する理由もない。
靖彦は学校でもモテモテのイケメンで運動も出来る。
何より一番出来るのは勉強。幼稚園から塾に通ってたんだって。
そんなエリートが何故私を?
身長も低いし、顔も可愛くないし、性格だってひねくれてる。
学力だって普通だ。運動なんて大嫌い。
だから、私はきっと靖彦が私で遊ぶだけなんだ、と思った。

でも靖彦は本気だった。

私が悲しい時は靖彦のあの温かい可愛い笑顔で慰めてくれたし、
私が嬉しい時はまるで自分のことのように喜んでくれた。
常に私のことを考えてくれていた。
そんな靖彦に私が惹かれたのはごく当然なことなのかもしれない。
私も、次第に靖彦の為に色々尽くすようになった。
嫌いな料理も我慢して、お弁当を一緒に食べた。
まずかったけど、靖彦は美味しい美味しいって言いながら食べてくれた。
・・・その後、お腹壊しちゃったけど。
靖彦は男として、申し分のない男だった。
浮気だってしないし、そんな素振りすら見せない。
いつ携帯のメモリーを見ても女の子のアドレスは私だけだった。
靖彦を好きになり始めた時は、
あまりにも完璧過ぎる靖彦が誰かにとられないか凄く心配だったんだけど、
靖彦の決心の強さと愛の本物さを信じて私は疑わないようになっていった。

そして、今。
とうとう私達にも別れの時が訪れようとしていた。

私達は誰も入ることの出来ない愛の二人っきりだけの世界を築いている。
口こそ、お互い年頃だから最近悪くなってきたけど、
愛の熱は未だ冷めてはいない。いや、付き合い始めた当初より明らかに熱くなってる。
そして、これからもどんどん熱くなっていって・・・
そう信じるだけで幸せな気分になれた。
そう信じるだけで何だか強くなれた気がした。
いや、きっと強くなってるんだ―――
ありがとう。靖彦。
アンタと過ごした日々は一生忘れないよ。


ある日の昼休み。


「痛っ!」
ドッジボールをやっている最中、私はボールを避けようとした時足を捻ってしまった。
電気が走ったような感じ。たちまち痛さが私の足に襲った。
「いったぁー・・・」
かけよる友達達。どうやら足が少し膨れているみたい。
友達が心配してくれているから、私は強がって
「大丈夫大丈夫!」
と、立ち上がった。
本当はかなり痛かったんだけど、友達にそんな弱み見せて欲しくなかった。
でも、ドッジボールに参加する力もなかったので、
念の為に保健室へ行ってくる、と言ってその場を去った。

保健室のドアの前に立った。
靴が一足ある。
男の子の靴だ。
何故か先生の靴がない・・・
もしかして、男の子が休んでるのかな。
だとしたら先生は職員室・・・?
まぁ、いいや一回入ってみよう。
なるべく動きたくなかったので、とりあえず保健室に入ってみることにした。

ガラッ。
「失礼しまーす・・・」
返事がない。
「あのー・・・先生、居ませんか?」
辺りを見回すと、ソファーの所に一人の少年が寝ている。
これは多分・・・サボリだと思う。
その少年の邪魔になっちゃいけないと思った私は
足早に保健室から出ようとした。

「何の用だよ」
急に声が聞こえた。
男の低い声だ。
私がビクビクしていると、
「だから、何用?」
と、また訊いてきた。
その声の主は、どうやら寝ている男の子らしい。
「え・・・あ。さっきドッジボールしたら足、変に捻っちゃってさ。それで・・・」
「先生を探しに来たってわけね」
そう言うと、パッと立ち上がって私の方に歩いてきた。
着ている制服のバッジに
「一年三組。三浦大吾」
と書いてあった。
え?この子一年なの?それにしちゃ大人っぽいなぁー。
その三浦とやらが私の前に来ると言った。
「座って」
へ?
何を言うんだ、コイツ。
という思いが顔に出てしまったみたいだ。
大吾は
「何だよ。その顔。痛いんだろ?」
と、訊いてきた。
まぁそりゃ痛いよ、こんなに腫れてんだから・・・
私は渋々大吾の言う通り、椅子に座った。
「足出して」
次の注文が来た。
「は?」
「だから足出してって」
「何でアンタに足出さなきゃいけないのよ」
急に手を伸ばしてきた大吾の手を私は警戒した。
「痛いんだったら貸せって。ホント、骨折してても知らねぇーぞ」
何、コイツ。何でこんなに偉そうなの。
ちょっとムッとした私だったが、「骨折」という言葉に
急に恐怖心を感じた私は、靴下を脱いで大吾に足を差し出した。
大吾は少し見ると、足を軽く捻った。
「痛い?」
訊いてくる。
「痛いに決まってんでしょ、馬鹿」
答える。
「じゃあ、これは?」
また訊いてくる。
「んー・・・それはあんまり痛くないかな」
そしてまた答える。
「じゃあこれは?」
またまた訊いてくる。そして答え・・・
「イタタタタタタタ!!!何すんのよ、馬鹿!!!」
答える。何とか答える。
大吾は軽く笑うと、後ろのかごから何かを取り出した。
「・・・何すんのよ」
もう大吾に警戒というものはなくなっていたが、
素直に言うことをきくのもシャクなので、とりあえず訊いてみた。
「処置に決まってんだろ。このままだとますます腫れちまう」
「・・・」
何だかカッコイイ、そして何だか説得力のある大吾に私は怯んだ。
そして、大吾が何かを塗ったりシップを貼ったりと
テキパキと処置をした。

「・・・よしっと。これでおしまい。もういいよ」
もう私の足は綺麗に処置されていた。
「・・・ありがと」
コイツにお礼を言うのも何だか嫌だけど、
一応手当てしてもらったんだしお礼は言っとかないとな。
そして、私は大袈裟に頭を下げた。
「別に」
大吾はそう言うと、またソファーにゴロンと寝転んだ。
そして、また眠りにつこうとしていた。
「ちょッ、ちょっとアンタ!」
焦った私は大声で大吾に近づいた。
「寝るなって」
「もう、何だよ、てめーは。もう手当てはしただろーが」
「君・・・三浦君でしょ」
「おう、それがどうかしたか?3年4組里中沙恵」
「えっ・・・!」
驚いた。
何でコイツ、私のことそこまで知ってるの!?
ちょっと怯むと、私の胸を指さした。
「ちょっ!何触ろうとしてんのよ変態!」
大吾の手をパシンッと叩き落した。
「ぃって!何すんだよ!そーいう意味じゃねーだろ!自分の服よく見てみろよ!」
「え?」
私の服・・・

・・・

・・・・・


・・・・・・・・・・


た、体操服だったーーーーー!!!

そりゃ組も名前も分かるわ。
恥ずかしい・・・
「バーカ」
モジモジしている私に大吾はトドメを刺した。
ちょっとムカついた私だったが、
いやいや待てよ、沙恵。
相手はたかが一年の坊主だ。案ずるな。
と、心を静めた。
そして、訊いた。
「ねぇねぇ三浦君」
「何だ馬鹿」
・・・!
耐えるのよ、沙恵・・・!
ここで殴ったら・・・!
「何でアンタ、さっきあんなに手当て出来たの?
 保健係って顔じゃないしねぇ」
「あぁ、俺医者の息子なの。
 父さんに嫌っていう程教えられたからある程度のことなら出来る。
 っつっても簡単なことだけだけどな」
へぇー・・・
コイツ医者の息子なんだ。
全然そんな雰囲気ないけど・・・
「っつーかさ」
ぼーっとしていたから、思わずドキッとした。
「用が済んだなら出てってくれる?」
「ぇ・・・あ・・・」
「ホラホラ!!!出てった出てった!!!」
「ちょっ・・・押さないでって!」
「てめぇーが出ていかねぇから押すしかねーだろ!」
「分かった分かった!出るから出るから!」
そして、私は大吾に背中を押され扉を開いて、最後の質問をした。
「何で保健の先生居ないの?」
大吾は廊下の方を指さして、
「てめぇは文字見えねぇのか、馬鹿」
と、言った。
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿言いやがって、コイツは・・・っとに・・・
そして、廊下の張り紙を見ると
「出張中」と書いた紙が貼ってあった。
あんなに大きく書いてあったのに・・・
「気付いたか?馬鹿」
「ばっ、馬鹿言うな!馬鹿!」
「そう?悪かったな、マヌケ」
「まっ・・・!」
「とにかく閉めるぞ。じゃあな」
「ちょっ・・・!」
そして、ドアがガタァン!と閉まった。
何だか久しぶりに年下に弄ばれたな・・・
少し反省して帰ろうとすると、保健室から声が聞こえた。
「また来いよな・・・」
え?
吃驚して、振り返ってドアを開けようとしたら
もう鍵が閉まっていた。
閉めるか!?普通・・・
でも・・・あれって気のせいかな?
好奇心から私は叫んだ。
「ねぇー!今、何か言ったー!?」
返事は返って来なかった。
どうやら寝たみたい。
だとしたらさっきのはやっぱり空耳なのかな。
でも・・・そうじゃないとしたら・・・




また、明日も保健室へ行ってみようかな・・・

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