「オイ!木村!パン買ってこいっつってんだろ!!!殺されてぇのか!?」
「は、はぃぃぃぃぃ〜っっっ!」
金髪でピアスを開けて煙草を吸って・・・
いかにも自分が不良だと言いたげな格好な奴が俺をパシらせていた。
これは、今日だけに限ったことじゃなくいつものことである。
俺は中学校の時に遊び過ぎたせいで、地元の公立学校でも一番低い高校にいった。
そして・・・このザマ。
周りは不良だらけ。校舎はボロボロ。壁は落書きだらけ。
教師も全く注意しない。
下手に注意して生徒に殴られるのが怖いからだ。
それだけでなく、毎日毎日他の学校から喧嘩をしにくる奴が居るのだ。
一般生徒・教師はコソコソと裏門が出る。
これが我が【咲乱(さきみだれ)高校】の普通だ。




一話 救世主現る




「えぇー・・・今日から二学期が始まる訳ですが・・・」
ビクビクして不良の様子を伺いながら、ハゲの鷹野校長が挨拶をする。
不良は校長の話を聞いている訳ではない。
木の陰で煙草を吸って、溜まっているのである。
校長は極力小さい声で、一般生徒に話していた。
大きい声で話して、不良の生徒の耳にまで届いたら
次の日、朝を家で迎えるのではなく病院で迎えるハメになる。
「・じょうで・・・ま・・・す。」
が、声が小さ過ぎて話が聞こえない。
いつの間にか校長の話は終わり、全校生徒は教室に移動していた。



――教室。
「えぇー。今日から新しく転校生が来た。あ、じゃ中に入ってきたまえ。」
「失礼します。」
そう言って入って来たのは、ごく普通の生徒だ。
「(可愛そうに。これから悲惨な人生を歩むんだな・・・)」
そう思いながら、俺は転校生を見つめていた。
その時、転校生と目が合った。
俺は「ヤバイッ」とは思ったが、何故か目が離せない。
全て考えていることを見透かしている
そんな感じの目だ。
その転校生は怒らず、俺にニコッと微笑んだ。
「大阪から転校してきました。草津ゆーもんです。よろしゅーに!」
やけに親近感を覚える奴だなぁと思いながら俺は聞き流していた。
「空いている好きな席に座りなさい。」
教師の田中がいうと、草津は俺の隣に何の躊躇もなく座り込んだ。
「此処座ってもえぇ?」
草津が俺に尋ねた。
「え、あ、うん。どーぞ。(って何で俺が言ってんだ)」
「お、さよか。おおきにおおきに。」
「(慣れ慣れしいけど、悪いやつじゃなさそーだな。)」
「そーいや、あんさんお名前は?」
「え?俺?俺は木村。木村悠太。」
「木村さんね。インプット完了!ってな。んなぁこれからもよろしゅぅな。」
「よ、宜しく。」
そして授業が始まった。
周りの生徒は観察するかのように、草津のことを見ていたが
俺は気にせず授業に集中していた。




キーンコーンカーンコーン・・・
「フー・・・疲れた。さ、帰ろっかな。」
「あ、木村の兄ちゃん。俺、友達おらんさかい一緒に帰ったってーな。」
「べ、別にいいけど、道違うかもしれへんやん?
あっ、関西弁うつっちゃった・・・
「お!関西弁上手いやん!道の心配はせんでえぇで?同じ方向やから。」
「え?な、何で俺のうちのことし・・・」
「細かいことはえぇがな!さぁ早よ帰るで!」
「ちょっ・・・草津っ・・・」
戸惑う俺の背中を草津はドンと押した。
何故、俺に付きまとうのか分からなかったが、悪い奴じゃなさそうだったので
この学校の治安の悪さを教えることにした。
「草津・・・っていったっけ?」
「せやで。ってゆーか自分さっき俺の名前呼んだやん。」
「此処の学校のガラの悪さ、知ってるのか?」
「ガラの悪さ?」
「うん。此処の学校、不良ばっかで毎日他の学校から喧嘩売ってくるやつらがいてさ。」
「ほぉ〜」
「ホラ。こっから前の入り口が見えるだろ?あそこにいる不良には関わるなよ。」
「へーへー。分かった分かった。そんなん良いから早よ帰ろうや。」
「特に真ん中の不良の番長の鮫島には・・・って話し聞いてねぇし!コイツ!」
草津は、既に靴箱で靴を履き替えていた。
「だって、キムちゃんの話し長なりそーやったもん。」
「だからって無視することないだろ!
ってゆーかキムちゃんって・・・
「すまんすまん。さ、早く帰ろや。」
「あ、あぁ・・・」
何か草津ペースって感じなのが少し不満ではあったが
やたら早く家に帰りたがっているので、草津ペースに合わすことにした。
「おい、草津。俺が先に行くから後ろから同じように通れよ?」
「はぁ?」
俺は不良達とは一切目を合わさず、もう壁に当たるギリギリを速やかに歩いた。
「(草津!ほら、早く来い!俺と同じようにだぞ!)」
俺が口を開けて、草津に伝えた。
「めんどいなぁー。そんなんせんと普通に通ったらえぇがな。アホな奴。」
「(な・・・!)」
そう言って、草津は門の真ん中を堂々とゆっくりゆっくり歩いた。
「(ば、馬鹿・・・!殺されるぞ・・・!)」
「おい、ちょっと待てよ。そこのガキャ。」
案の定、草津は止められた。
「誰が門の真ん中、堂々と通っていいっつった?えぇ?」
「何で門の真ん中通ったらアカンねん。意味分からんなぁ。」
「あんだと!?」
「ちょい待ってください、先輩。コイツ多分転校生じゃないですか?」
「ん?そーいわれると見ねぇつらだな・・・とにかくコイツはぶん殴る。」
「お前に殴られるぐらいやったら死んだ方がマシじゃ、ボケ。」
「(な・・・・!!!!何言ってんだぁぁぁぁーーーーっっっ!?!?!)」
「なめやがって・・・・!殺してやる!!」
鮫島の太い腕が上がった。
「(殴られる・・・!)」
俺は、自分が殴られる訳でもないのに目をつむった。
その時鈍い音と共に
「ぐっ!」
という男のうめき声が聞こえた。
「(あれ程俺の真似しろっていったのにー・・・!あっ!手当てしないと!)」
俺が草津の手当てをしないと思って、目を開けるとそこには信じられない光景が繰り広げられていた。
「あ・・・あれ・・・!?」
草津は何くわぬ顔で立っている。
それどころか傷一つ負っていない。
「ど、どういうこと・・・?え・・・!?」
「ぐあぁぁぁ!!」
鮫島が腹を抑えて唸っている。
「本間アホなやっちゃのー・・・俺に喧嘩売って勝てると思っとんかい。」
「ちょ・・・!草津・・!これ、どーいうこと・・・?!」
「どーいうことって?見たまんまやんけ。こーいうこっちゃ♪」
草津が笑い、鮫島と子分の山野が腹を押さえて唸っている。
「お前が・・・やったのか!?」
「?そうやけど?何かアカンかったか?」
「は・・・はは・・・」
信じられない真実に俺は笑うことしか出来なかった。
「何で笑うとんねん。コイツらなんかほっといて早よ帰るで。」
「お、お前何者だよ!」
「はぁ?知っとるやろ?草津やっちゅーに。」
「そ、そーじゃなくて!なんでそんな強いんだよ?!」
「昔にちょっとな。そんなんえぇから早よ帰るで。」
そう言って、草津はゆっくりと家の方向に歩き出した。
コイツ、何者だろう。
いけないことではあったが、俺は一つのことを決心した。
コイツのこと、骨の髄まで調べつくしてやる。



翌日・・・




草津圭太。
突如転校してきて、転校したその日に番長を倒し
この学校で生徒会会長の成績を抜いてトップの謎の関西人。
そして何故か・・・
「キムちゃん!帰るでぇ!」
俺に付きまとう。
コイツのことを調べて、分かったのは結局これぐらいだ。
調べた意味ほとんどないし・・・(涙




授業終了のチャイムが校舎全体に鳴り響く。
特に変わったことはない、ごく普通のチャイム。
しかし、このチャイムが鳴った30秒後ぐらいに異変が起きる。
「くっ、草津さぁぁぁぁ〜んっ!!!」
そう叫び走りくる不良達。
草津が番長を倒してからというもの、新番長と叫んでは駆け寄ってくるのだ。
「何やねん、お前ら本間うっとぉしいなぁ。ホモか。」
相変わらずの草津の態度。
コイツらにはいつもこんな感じ。うっとぉしいと言いたげだ。
「そんな!待ってくださいよ!草津さん!」
それでもしつこく歩み寄る不良達。
この前まで、俺にパシらせていた不良までペコペコしている。
草津と仲が良いと周りに勘違いされ(実際そうなのか?)
不良は俺に手を出さない。
有り難いといえば、有り難いのだが・・・
「おい、木村。お前も草津さんに挨拶しろ!!!」
・・・全く疲れさせてくれる。
「おぉ、せやせやキムちゃん。ちょい話したいことあるねん。来てや。」
いつも面白くない話しをベラベラ話しながら、高速で玄関へ向かう草津が俺を呼んだ。
「ぇ?あ、うん。」
そして、不良達の居ない廊下へ。
「なぁ、キムちゃん。」
草津が改まっていうので、少しドキッとした。
「な、何だよ。」
「部活入ってる・・・よなぁ?まぁ3年やから当たり前か・・・」
「部活?」
草津から思いもよらない言葉を聞いた。
部活―――
この、いつでも家でぐーたらしてそうな草津が部活のことを話してきたのだ。
俺は正直驚いた。
「きゅ、急に何だよ・・・っていうか俺部活入ってねぇし。」
「本間か!?さよかさよか!良かった良かった〜っ!」
「は?」
「俺、水泳部入ろうて思うてんねん。」
「水泳部?」
意外だった。部活を誘われるだろうとは思っていたがまさか水泳部とは。
「草津、お前泳げんの?」
「俺?無理。カナヅチやし。」
威張って、草津は答えた。
「そこは威張るところじゃない。っていうかカナヅチなのに水泳部って・・・」
「俺なぁー。この学校のプール見て思ってん。このプールが俺を呼んでるって・・・」
「はぁ?」
「俺は決めた!キムちゃんと水泳部入って全国大会優勝したる!!!」
「ちょっ・・!草津っ・・・」
「んでなぁ!プロの水泳選手になって・・・」
「うちの学校、水泳部廃部が正式に決まったんだけど。」
「はい?」
「いやだから、水泳部は廃部だって。」
「な、何ぃーーーーーっ!!!」
俺はこの時、草津が本気で水泳をやりたがっているとは思っていなかった。
所詮、お遊び。
ちょっとやったらすぐ辞めるだろうと思っていた。
俺には草津がそーいう男に見えた。
草津はしばらく黙り込んでいた。
どないしよかな、そんなことをボソッと呟いては頭をひねる。
あれも違うこれも違う。
そんな感じだろうか。草津は俺の前を行ったり来たりして歩いていた。
時間の無駄だと思ったので、俺は草津に帰ろうと声をかけようとした。
「くさつ・・・」
その時だった。
「せや!!!」
草津が突然何かを思いついたようだった。
しかし、あまりに草津が大きい声を出したので俺は思わず吃驚した。
「水泳部を立て直せばえぇねん!」
勝手にやってくれ。
俺はそう心の中で思っていた。
「草津なら出来るよ。」
何の根拠もなく、俺は草津にそう言った。
「草津なら出来る。根性あるし頑張り屋だし・・・」
早く帰りたかった。
草津を煽てて、早く帰る気になればいいと思っていた。
「そうやんな・・・そうやんな!さすがキムちゃん!」
何て単純な奴なんだろう。
俺の言葉に心がこもっていないことは言い方で分かる筈なのに・・・
まぁそこが草津らしいといえば草津らしいのだが。
「んなら・・・」
帰ろう。そう言ってくれると思い俺は既に玄関の方に歩き出していた。
「一緒に再建しよう!水泳部!!!」
「は・・・?え・・・?今なんていった?
一緒って・・・?
「一緒に再建しよやって・・・何かアカンかったか?」
何かアカンかったか?じゃない。
そんな面倒なことやるもんか。俺は第一・・・
「大丈夫やって!俺泳がれへんねんで!?でもやる気があれば・・・」
「やる気があっても無理なもんは無理!しかも水泳部一人だけだぞ!?」
「俺とキムちゃん含めて三人やん♪」
「勝手に入れるな!」
「何かキムちゃん、カリカリしてんなぁー。何でそんなに嫌なん?」
「再建なんか無理だっつってるだけだろっ!」
「あ・・・」
草津はニヤーッとした。気付かれたんだろうか。
「お前も泳がれへんのやろ。」
図星だった。
俺はかなり動揺していた。
高校三年生にもなって、25メートルクロールでも泳げない。
俺は典型的な運動音痴であり、カナヅチなのだ。
「そ、それがどうした?!とにかく3人じゃ無理だ!5人いないと部としては認められない!」
俺は必死だった。必死に草津を説得していた。
「はは〜ん。やっぱキムちゃん泳がれへんのかいな。」
草津はププッと笑った。
お前も泳げないくせに。
「まぁーカナヅチのことはおいといて。俺とキムちゃんと旧部員で3人。何とかなるやろ。」
「ならない!」
「木村がカナヅチってことみんなに言いふらしてえぇんかなぁ〜。」
俺は弱くてなよなよしくて頼りなかったが
世間の評判だけはいつも悪くなかった。
真面目な木村君。
そんなイメージを保たれる為に、俺は小学校の時から自分を創り上げてきた。
ところがカナヅチ?
冗談じゃない、辞めてくれ。
真面目で努力家の木村君のイメージが廃れてしまうではないか。
頭の中でそう結論を出した俺に選択の余地はなかった。
「分かったよ・・・」
「うっし!じゃぁ早速職員室行くぞ!
えぇかっこしいの木村くん!
えぇかっこしいで悪かったな!って、え?しょくいッ・・・・うわぁ!!!」
草津は俺の腕を強引に引っ張り、職員室へ駆け出した。
「ちょっ・・・!草津ーっっっ!!!」

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