あれからずっと考えてみた。分かることは二つ。

一つは俺が犬になってしまったこと。

そして、もう一つは・・・

「ただいまー!!!元気にしてたぁー?」

鈴に飼われていること。





二話 海






犬になっちゃってから早一週間がたつ。

新しくなって分かったことは特にない。

しかし、どうやら俺という存在はないようだ。

鈴と一緒に散歩行った時に、学校の靴箱を見ても俺の名前はなかったし

何より母が心配していないことが何よりの証拠だ。

少し寂しい気もするがなったことは仕方がない。犬として生きよう。

そして、いつものように鈴が帰ってくる。

俺は何故か「仁」と名づけられた。

その時は「やっぱり俺って事分かってんじゃん」と思ったが、それはどうやら勘違いらしい。

たまたま鈴が仁という名前を思いつき、俺につけた。ただ、それだけのこと。

俺はため息を一つついて、ガラスに映る今の姿を見た。

やっぱり犬だ。何も変わっていない。

はぁ、とため息を一ついたその時

「わっ!えへへ〜。驚いたでしょ」

鈴がいきなり俺を脅かしてきた。鈴と居る時は時々俺は今も人間なんじゃないかと思うときがある。

これはドッキリか、何かの悪い夢できっともうすぐ覚めるんじゃないか・・・って。

でも、鏡やガラスを見ればすぐにこれは現実だと自覚する。

そんな馬鹿げたことを俺は何度も何度も繰り返していた。

その日もいつものように何事もなく過ぎ去っていった。

ように見えた。しかし、夕食時に鈴が言った。

「ねぇお母さん!今度、仁も連れて海に行こうよ!きっと喜ぶよー!」

相変わらず鈴がはしゃぎながら提案する。

大抵、ここで鈴が何か案を出した時は幸に何らかの理由をつけられ、廃案になるのだが今日は違った。

「そうね。明日土曜日だし、最近家族で旅行なんて行ってないしね」

母がこの案に乗ってきたのだ。

「嘘!?あたし、鈴連れて買い物行こうと思ってたのにぃー・・・」

ぷくーっと膨れた様子を見せる幸。何となく可愛いと思う。

俺がニヤーッとしながら幸を見ると幸は「シッシッ」と俺を手で追い払った。少しムカつく。

「いいじゃない。たまには海に行きましょう。じゃあ明日の用意して寝てね」

「はぁーい!良かったねー!仁ー!」

「ワン!」

「ちぇー・・・ま、明後日でも行けるから別にいっか。あー焼けるのやだなー・・・」

そして夜は更けていった。




「・・・て。起きて。仁!朝だよ!」

ん?まだ8時じゃねーかよ・・・もう少し寝かせてくれよ・・頼むから・・・

「もうっ!・・・うふふ。どうだっ、くらえ〜」

・・・?うっ、うわっ!頬を寄せるな!は、恥ずかしいだろ!//////

っつーか母さんが何で・・・!

「わんわんわん・・・!(うっせぇんだよ、くそババア!え・・・?わん・・・?)」

「どう?起きた?」

こんな朝が続いている。

朝起きたときだけまだ自分が人間で居たような気がしている。

そして、犬ということにまた気付いてため息をついた。

「今日は海に行くんだから!海って知らないでしょ〜。すっごく大きくてね〜」

知ってるわい。これでも俺は前まで人間だったんだよ。

「それでね、それでね・・・お姉ちゃんがビキニ買ったって喜んでたからビキニ着るんだって!」

「わん!?(マジで?!)」

「あっ、ヤラしい〜。今、変な事考えたでしょ」

「わっ、わんわんわんわん!(なっ、何言ってんだ馬鹿!んな訳ねーだろ!)」

っつーかコイツは犬語が分かるのか!?

「はいはい、朝は静かにしてなきゃ駄目だよ〜」

鈴になだめられてクゥ〜ンと甘えた声を出して俺は無理矢理抱かれ、無理矢理車に入れられた。

これって拉致じゃねーの・・・?










「海だーっ!きゃほーぃ!」

「わぉーん!わんわんわぉーん!(水着だビキニだ幸と鈴だ〜!)」←
変態

はしゃぐ鈴と俺。

真っ青な海と空。何処まで見渡しても終わりが見えない。

ビーチは人でにぎわっていた。たくさんの屋台も出ていた。

「も〜・・・焼けるのやだな〜・・・」

念入りに日焼け防止の為のクリームを塗る幸。

「じゃ、着替えましょう。さぁ、鈴、幸。こっちに来なさい」

んじゃ俺もお邪魔しま〜〜〜っす♪

「お前は男だろーが!」

いてぇっ!!!

幸に足で蹴られてかるーく2メートルは飛ばされた。←
虐待?













数分後・・・










鈴「おっまたせー!仁、何処ぉー?」

下だ。下にいるんだ、ヴァカ。人間の視線で俺を捜すな。

「わんわんわん!(ちぇっ、普通の水着かよ!)」

「えっ、そんなにあたしの水着姿見たかったの?えっちだな〜」

「わっ、わんわ・・・!(ちっ、ちが・・・!)」

その時現れた細くて白くて綺麗な脚のビキニ姿の女性が。

「わっ、わぉぉぉぉぉ〜〜〜ん!!!(う、うぉーーー!サイコー!!!)」

幸だった。すげぇ似合うっていうかすげぇそそる〜♪←
良い子は真似しないでね

「こ、こら!エロ犬!あたしの水着見て発情すんな!」




どふっ!

いつもなら痛い蹴りも何だか今日は・・・♪←
こんな子にならないでね

「よしっ!じゃあ男ナンパしに行ってくるわよ〜!」

え?良い歳こいて何言って・・・ってもういっちゃったよ、おばさん。

元気だな〜。ある意味見習わなくちゃいけない部分もあるな。

「じゃーあたしと鈴は海水浴でもいく〜?」

「うん!でも仁が・・・」

チラッと俺の方を見る。

俺だって行きたい。別に下心から言ってるんじゃなくて、純粋に海で遊びたい。

昔だって幸と鈴とよく遊んだとは言ったけど海で遊んだことなんて一度もない。

だから、一度だけでも・・・行ってみたいという気持ちある。

でも俺は今犬だ。

だから・・・

「いいのいいの!そんな小汚いエロ犬!アンタね〜。人間の良い男とその犬、どっちがいいのよ?」

「え?そ・・そんなの・・・//////」

「何で照れてんのよ(汗)とにかく。その犬が男の人間だったとしてもあたしは相手しない。もっと良い男探しなよ。」

「ちょっ・・・!お姉ちゃん!」

幸の言っていることは間違っていなかった。

所詮、幸達からしたら俺は捨てられていたから小汚いだろう。

エロ犬。そりゃそうだ。俺だって年頃な雄なわけだし。

それに、俺よりもっと良い男もいるんだから・・・

全部分かっていた。幸の言ったことは間違っていなかった。

けど、俺は傷ついた。彼女の幸の口からそんな言葉、聞きたくなかった。

「ごめんね・・・お姉ちゃん、男の子の事になると急に荒くなるんだ」

「わ・・・わんわん?(え・・・お、男なら?誰でもって事?)」

その時急に頭の中に何かがグルグルと回り始めた。

幸はもしかして約束なんかじゃなくてただ彼氏が欲しかっただけなのか?

俺はその標的のうちの一人に過ぎないのか・・・?

「あっ、お姉ちゃんが呼んでる。じゃあ行ってくるね。ここで大人しくしててね」

鈴が去ってからも俺はずっとそんな事ばかりを考え込んでいた。

青い静かな海を見ながら。



















「おーい!じーん!何処いったの〜!」

オレンジ色の夕日に照らされた海辺で、涙ながらに叫ぶ。

「ったく!あの犬、世話妬かせやがって!」

何処かで幸も怒っている。

でも、俺は声を出せない。何故なら・・・






「へっへっへ。さっきのお返しはたーんとさせてもらうぜ」

変な男達に捕まってるからだ。

これは、鈴達が居ない間の話しなのだが・・・





「おーい!ここに変な犬が居るぜ!」

俺の周りに一人の若い男が寄ってきた。っつーか俺に言わせたらお前の方が変だぜ。

「ホントだ。結構可愛いじゃん」

仲間っぽいやつが慣れなれしく俺に触ってくる。

まぁ、ここは我慢してやるかと苛立ちながらも俺は怒りを静めた。

だが、その男だけは仲間のように優しくなかった。

「そうだ!いいこと思いついた!おい!木の棒持ってこい!」

男が叫んだ。わけの分からない様子のまま仲間らしき奴が木の枝を持ってきた。

そして、俺を突き始めた。

「へっへっへ。見ろよ、こいつ。嫌がってるぜ」

「・・・(ここは我慢だ。俺。相手は所詮ガキなんだ)」

しかし、俺のそんな思いも知らず男はしつこく俺を枝でつついてきた。

仲間が少し俺に同情して止めようとする。

しかし、男は「うるせぇ!」と大声を出して、その仲間らしき奴らの意見を塞ぎこんだ。

とうとう我慢しきれなくなった俺がその男に噛み付いた。



そして、俺は今袋の中。口を開けられないように何かをつけられた。

そしたら吠えることが出来なくなった。口を開けることすらきつい。

幸い耳は何もされなかったので音はかすかだが聞こえる。

幸や鈴の声。俺を心配しているんだろう。

何か脱出方がないかと探っている時、男達の会話が聞こえた。

男「おい。ボート出してくれ」

仲「え・・・別にいいけど。どこまで?」

男「この海岸から大分離れた海に捨てたいものがあるんだ」

す・・・捨てたいもの?

ま、まさか・・・!

仲「何が入ってるんだ?その袋。何か動いてるような・・・」

男「まぁな。とにかく早く連れてってくれ」

や、やばい!殺される!

とは言ってもボコボコにされたから体を動かす元気はない。変な道具で声も出せない。

どうにも出来ない。誰か・・・

誰か・・・!!!!












「え?」

鈴が海辺の方に振り返った。

「どうした?見つかった?」

「・・・お姉ちゃん。あそこ」

「え?あのボートのことか?カッコイイよねー」

「違う!あそこに仁が居るの!仁があそこに乗ってるの!」

「え・・・?何でそんなことが・・・っておい!待ってよ鈴!」









音からしてボートはかなりのスピードを出している。

確実に沖から離れているような気がする。

と、その時気配がした。

そして、袋から無理矢理出され、あの変てこな道具も外された。

もしかして助けてくれるのか?

そんな淡い期待は一瞬にして絶望へと変わった。

男「わるいな。この道具は今後も使うのさ。この袋もまだ使う予定で・・・って事であばよ!」



あ・・・


あばよ?



う、、、








うわぁぁぁぁぁぁ!!!


男が俺を力一杯放り投げた。

俺はどんどん奥へ飛ばされた。

そして、海面に叩き落された。

バシャァン!

痛い。あんな高い位置から投げるなんてあの男馬鹿か・・・!!!




「わっ、わんわんわん!!わぉん!!!(おっ、溺れる・・・!だっ、誰か助けて!!)」




もしかして俺は死ぬのか・・・?







そうだよな。








もし、俺が人間で海辺を散歩していて溺れている犬が居ても見捨てると思う。




人間なら話は別だ。幸だって言ってたじゃないか。





所詮犬だ・・・ってな。








仁「わ・・・・!(く・・・!限界か・・・)」




俺は海の底へ今から沈むその時だった。


バシャアン!


水に飛び込む音。

近くで誰か飛び込んだんだろうか?




え?


誰かが飛び込んだ!?

俺を助けるために!?

「わ・・・わんわん・・・わっ・・・(たっ、助けっ・・・)」

だが体がいうことをきかなかった。

そして、俺の体は沈もうとしていた。

「駄目!!!諦めちゃ駄目!!!」

この声は鈴?あのカナヅチの鈴?俺の為に飛び込んだのか?

鈴「さぁ・・・こっちおいで・・!」

波は来た時の高さとは比べ物にならないほど、激しいものになっている。

そんな激しい波にさらわれながらも腕を伸ばす鈴。

鈴が頑張ってんのに・・・俺は・・・俺は!

「わっ、わぉぉっ・・・ぉおーん!!!!(うっ、うぉぉぉーーーっ!)」

精一杯の声を上げた。その声に鈴の母が正確な位置に気付いた。

「鈴!この浮き輪に掴まって!」

母が鈴のところへ緊急用の浮き輪を投げる。

そして、鈴が俺を抱き寄せその浮き輪を握り締めた。

俺は安全しきったのも含めて気を失った。
















「くぅーん・・・?(ん・・・?)」

「あっ、目が覚めた?良かった!お母さんお姉ちゃん!仁が気付いたよ!」

鈴が嬉しそうに声を張り上げた。

鈴はどうやら服のまま飛び込んだらしい。

髪の毛から服までびしょ濡れだった。

「良かったわねぇ〜。でも、どうしてあんなところに居たのかしら?」

首をかしげる母。

説明出来るならするけどさ・・・出来ないからどうしようもないじゃん。

「馬鹿な犬」

冷たい一言を言って俺を見下す幸。

「鈴、あんたなんで泳げないのにこの犬助けたの?波も荒かったし、あたしが行くって行ったじゃない。

   その為にわざわざ水着に着替えてたのに・・・」

「だって仁は私達の家族だよ!それに、後少し遅かったら死んでたかもしれないんだよ!?」

幸「仮にもその犬は雄でしょ?人間の雄だったら最低だね。遊ぶのには丁度いい相手かもしれないけどね。

   その犬が勝手に入って勝手に沈もうとしてたのよ。自業自得ってやつね」

「・・・!」








そうか。



やっぱりそうなんだ。



俺は、幸に遊ばれるだけのオモチャだったんだ。


それが分かったら俺はもう・・・










酷すぎるよお姉ちゃん!!!

鈴が珍しく怒った。

「そんな言い方ないよ、お姉ちゃん!別に仁が一人であんな所へ行ったって証拠はないじゃん!

   それに仁はとっても優しいよ!あたしはお姉ちゃんが好きになる男の子よりよっぽど仁の方が好きだよ!」

鈴・・・!

「な、何ですって〜!!」

「ほらほら、二人共やめなさい。早く帰るわよ。用意しなさい」

「ふんっ!」

「・・・」








この時



たった一日の日帰り旅行だったが









確実に俺の中で何かが変わった。

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