ホントは実験だったんだ。
私は、ただ肌が綺麗になるか実験したかっただけ。
だって、私のニキビ、ホントにしぶといんだもん。

ニキビ

「あぁー。あたしまたニキビ出来たー・・・」
鏡を見ながら私は顔を近づけた。
新しいニキビが出来ている。
中学に入って、運動部に入ってからというもの、
少し運動して汗かいてはすぐニキビが・・・
親とかは
「思春期なんだから仕方ないでしょ」
みたいなこと言うけど、
お洒落が好きなあたしとしては・・・やっぱ嫌だよ。
そんなお洒落好きな私は、色々なことを試した。
薬局に売ってるニキビのクリームを片っ端から買って塗ってみたり、
石鹸を何種類も試したり、こんにゃくをいっぱい食べたり・・・
最終的には皮膚科なんかにも行ったりした。
それでも私のニキビは一向に良くなる気配を見せなかった。
「しぶとい奴め・・・」
鏡に写る私のニキビをじっと睨んだ。
今回出来た箇所は、口のちょっと右下。
目立つよ、ここは・・・はぁ。
ため息一つついて、私は学校に行った。

キーンコーンカーンコーン・・・

「優奈ー!一緒にお弁当食べよ・・・って何読んでんの?」
親友の君香が神妙な目付きで私を見てきた。
「なっ、何でもないでしょ!」
「何でもないなら隠しなさんな。ホラ、見せてみなって」
右手をサッと私の方に出す君香。
こうなると何か君香ペースっていうか・・・
私は逆らうことが出来ない。
私は渋々雑誌を渡した。
「・・・アンタ、また肌の雑誌買ってきたのぉ!?」
吃驚した、しかし呆れた様子で君香が怒ってきた。
「し、仕方ないでしょぉ!また今日も新しいニキビ出来たんだから・・・」
「アンタねぇ。そんなに気にしなくても結構綺麗な方よ?」
と、言って私の頬をつついてきた。
「触るな!ニキビが増える!」と、私は優奈の手をはじいた。
「はいはい。もう・・・っとに君香は・・・」
君香は何故か肌がとても綺麗だ。
部活も私と一緒だし、どっちかというと君香の方が運動量は遥かに多い。
それなのに、何故君香はこんなに肌が綺麗なわけ?
・・・納得いかん。
「もう許せないっ!こうしてやるっ!」
「ちょっ、ちょっと優奈!きゃあー!」
私は無理矢理君香の頬を触りまくった。
はたから見たら、ただの変態、否
レズカップルに見えるかもしれないが、これが私なりの一生懸命な抵抗。
君香は口も強いから私はこうするしかない。
何てちっぽけな人間なんだ、私は・・・
「もうっ!やめてよ、優奈っ!」
「・・・はぁ。やっぱこれも親からもらった遺伝子なんかねぇ」
渋い顔をして、窓辺を見る。
窓からは体育の時間でソフトボールをやっていた男子が、
まだ試合をやっている。
その中でも一際目立つのが、立石。
野球も上手いくせに、肌も綺麗。
男なんだから、別に気にしなくてもいいだろ!
って前に言ったら、
いや、俺気にしてねぇーから。ってあっさり言われちゃった。
絶対嘘だ。何もしてなくて、あんなに綺麗になるわけがない。
立石を見ながら、ますます苛々してきた。
「ねぇ!?君香と私にこれ以上の違いがある!?」
「学力の差?」
「うっ・・・で、でもそれはお肌とは関係ないでしょ!」
「うーん・・・」
考え込む君香。
考え込むその動作までもが美しく見える。
これも肌が綺麗だからか。畜生が。
すると、君香は「分かった!」と言わんばかりに手をポンと叩いた。
「何々!?結論が出た!?」
その君香のリアクションに私は飛びつく。
まるで、餌を見せられた犬のように。
「ううん、別に」
・・・てめぇ。
「っていうのは嘘!分かったよ!あたしと優奈の違い!」
「嘘!?」
願ってもみない。
これはもしかしたら私が変わり始める第一歩かもしれない。
さぁ、言え君香。
画期的かつ、驚かせるような、その対処法を・・・!!!





「アンタ、恋してないでしょ」




「え?」
「だから、アンタ恋してないでしょっつってんの」
「こ、恋って・・・」
「だって私達の周りの肌が綺麗な女子ってみんな恋愛してるじゃん。
 あたしだってダーリンがいるし♪
 でも、アンタ今まで一度も恋愛したことないんじゃないの?」
「・・・」
「アンタ、性格はともかく顔はイケてんだから、恋しなきゃもったいないよぉ〜?」
「・・・・・・」
「・・・ゆ、優奈?」


何だ、この抑えんばかりの感情の高ぶりは。
こんな気持ち始めてだ。
まさに、自分で箸を持っているのに、食事中
「お母さん、お箸何処ー?」と訊くガキに
「アンタが持ってるやないの」って言われたガキみたいな気分だ。
盲点だった。何故私がこれだけお肌にお手入れして結果が出ないのか・・・
技術的にも知識的にも遥かに君香より勝っている私の盲点、
精神面。つまり恋愛。
恋愛さえしてしまえば肌は一気に綺麗になる・・・!
そう言えば前読んだ少女漫画でもそんなこと書いてたし・・・!
間違いない!


「ちょっ、ちょっと優奈っ!」
私は窓辺から体を乗り出した。
そして、叫んだ。
「おーーーーーーーい!!!馬鹿立石ーーーー!!!」
運動場に居る人全員が私の方に振り向く。
勿論、立石も振り向いた。
「おい立石聞いてんかゴルァ!!!聞こえてんやったら返事ぐらいせぇやお前!!!」
←何で関西弁?
怒声が運動場一体に響く。
君香は後ろであんぐりと口を開けている。
少したって、立石から返事がした。
「な、何だーーーーー!!!」
さすが男の声。
私より遥かに響いている。
私は一息ついて叫んだ。











「私と付き合ってーーーーーーーーー!!!!!!」



「・・・ホント吃驚したって。昨日は」
「あははー!そうかなぁー?」
「随分とご機嫌だね・・・ホントこっちは驚いたってのに・・・」
「んふふ♪だって、これでニキビが治るんだもん!」
「治るって決まったわけじゃないでしょ!しかも・・・立石が可愛そうじゃない?」
「んー。でも、あたしだって馬鹿じゃないんだから、
 一応カップルらしいっていうか彼女らしいことはするつもりだし」
「あのねぇ・・・そーいう意味じゃ・・・」
「おーい!!!美坂ー!!!」
後ろから男の声がした。
立石だ。
「ホラ!彼氏が来たよ!じゃ、あたしは先に行ってるねぇ〜」
悪戯気に笑うと、君香は走って行ってしまった。
「あっ!コラ、待て!」
止めようとするが、聞かなかった。
そして、後ろから大きい手が私の肩の上に乗った。
「よう、美坂」
「うん、おはよ・・・」
「何だよ、やけにテンション低いじゃん」
「や、だってさぁ・・・アンタ周りが気にならないわけ・・・?」
「え?周り?」
辺りを見回す立石。
周りには、こっちを見てヒソヒソ話す制服を着た少年少女達。
普通の男だったら嫌がるだろう。
いや、普通の人間だったら嫌がるであろうこの状況に、
何と立石は
「別に何も変わった様子はねぇけど?」
と、とぼけやがった。
「はぁ〜・・・ホント呆れた。じゃ、あたし日直だから」
「ちょっ、待てよ美坂!」
待たず、私は校舎へ走った。

そして、何も変わらず一ヶ月という月日が過ぎようとしていた。

「ちょっと〜!!!君香〜〜〜!?」
私は君香を呼んだ。
「ふぁ〜あ・・・なぁにぃ?まだ1時間目の休み時間だよ・・?」
「何って!もうすぐ一ヶ月なのに、あたし肌全然綺麗になんないよ!?」
「だってそりゃアンタ恋愛してないじゃんか」
「へ?」
「だって、付き合ってはいるけど立石のこと好きじゃないんでしょ?」
「あったり前じゃん。あんな奴好きになる子なんて居ないよ」
「アンタねぇ・・・恋愛っていうのは人を好きになるっていうことなのよ??」
「知ってるよ。それで、付き合うんでしょ」
「お互いが両思いだったらね。けど、アンタの場合好きになるって段階飛ばしてるし」
「あ・・・」
「そりゃ、肌も綺麗になんないさ。それより今日の帰り、カラオケ行かない?」
「・・・」
「ねぇ?聞いてる!?」
「え?うん、勿論!行く行く!」
結局私は君香とカラオケに行くことになった。



「今日は歌ったねぇー」
満足気に話す君香。
私は相変わらずその君香の顔しか見ていない。
「っていうか君香の曲、ロック多いんだって。耳痛い・・・」
「いいじゃん!てか、あんたの曲がバラード多いの!
 あ、ちょっとあたし寄る所あるから、先帰ってて。そいじゃ」
「あっ、ちょっと君香!」
君香はこんな風にマイペースになることが多い。
勝手気ままに、良い言い方をしたら自由に生きているのである。
もしかして、それが肌に良いんではないだろうか・・・
私が考えていると、前から声がした。
「おっ、君可愛い顔してるねぇ。高校生?」
一人が金髪。もう一人が茶髪でヤバそうな服装。
どう見ても二人共二十歳前後ってところだ。
でも、二人共かなり細い・・・
とは、言え女のあたしがかなう相手じゃない。
「すいません、私急いでますから」
私は振り払って帰ろうとした。
しかし、その男達はしつこく何処までもついてきた。
どうしよう。怖いよう。
お母さんだって、今日に限って居ないし君香もどっか行っちゃったし・・・
どうしたらいいんだよう。
半ば泣きそうになっている時、一人の人物が思い浮かんだ。
立石だ。
アイツなら、体も大きいし野球部だから力も強い。
よし。アイツに少し役に立ってもらおう。
私は男達に付きまとわれながら立石にメールを送った。

数分後・・・

「ねぇ!良いじゃん良いじゃん!あ、そこの喫茶店とか雰囲気良くない?」
「あー良いね良いね!入ろ!ね?」
とうとう男達が私の肩を強く掴んだ。
もう、駄目だ。
このままエッチなホテルとかに連れていかれちゃうんだ。
ごめん、お母さんお父さん・・・
私は完全に諦めたその時だった。
「おーい!美坂ー!どうしたー?ってん・・・?」
立石だ。
立石が来てくれた。
「おい、どうしたんだよ美坂。何?知り合い?」
全く鈍い奴だ。
優等生の私がこんなチョロイ連中と知り合いなわけないだろう。
「いや・・・違うけど・・・」
早く気付いて立石。
コイツらとっても悪い奴らなんだよ。
とは願ってみても、立石は気付かないだろう。
だって立石は・・・
「じゃあ、すんません。俺、今からコイツとデートするんで」
は?
「じゃぁサイナラー」
「ちょっ・・・たち・・・!」
「黙ってついてこい」
「え・・・?」
「サイナラー!」
そして、立石が肩を抱いて走り去ろうとした。
しかし。
「おい、ちょっと待てや。お兄ちゃん」
呼び止められた。
立石の足が止まった。
「何スか?俺達、次の電車に乗らないと間に合わないんスよ」
「その汚い肩をどけな。その女は俺の女だ」
「ええぇ?」
わざととぼけた表情を見せる立石。
何を考えているのかサッパリ分からない。
「お兄さん、俺何言ってるか分かんないスよ」
まだとぼける立石。
「っつーか優奈は誰のもんでもねぇ。
 てか、俺優奈の彼氏だし。
 とぼけてんじゃねぇよ、このチャラチャラコンビ」
「・・・!てめぇ!!」
いやぁっ!
殴られる・・・!
「走れ美坂!」
「え?」
「電車に走れ、美坂!」
「・・・!」
私はワケの分からない、パニックを起こした頭を連れて
立石の言うがままに電車に走った。
何?
どういうわけ?
立石はどうするの?
走る距離に比例して、段々と頭もクールダウンしてきた。
しかし、完全に冷静さを取り戻したのはプラットホームに着いた時だった。
ちょうど電車が到着した。
このまま電車に乗っちゃったら立石が危ない。
でも、立石との約束を破るわけにはいかない。
「ごめん、立石・・・!」
プシュー。ガタン。
電車のドアが閉まり、動き出した。
ごめん立石、ごめん立石・・・!
頭の中でそれだけを叫んでいた。
ごめん立石ごめん立石・・・!
いくら呼んでも、いくら叫んでも足りないこの気持ち。
段々と言葉の意味も分からなくなってきて、呪文のように私は繰り返した。
ゴメンタチイシゴメンタチイシ・・・
そして、涙が止まらなくなっていた。
ごめん、立石・・・





「おぉ!無事居たか、美坂」



何?
この声、何だかさっき聞いたような気がする。
私はとっさに振り返った。
「ん?何だよ、その死人を見てるような顔は・・・
 っつーかお前ぇ泣いてんのか?!」
相変わらず、すぐに気付かないこの鈍さ。
そして、よく通る低い声。
「た、立石・・・」
「な、何で泣いてんだよ。どうかしたのかよ?」
「立石っ!」
「?みっ・・・」
私は立石に抱きついた。
強く強く抱き締めた。
無事で良かった。無事で良かった。
心の底から安心した。
立石が無事で居てくれることがこんなに嬉しいなんて自分自身信じられなかった。
でも、堪らなく嬉しかった。今まで生きてて一番嬉しかった。
「ど、どうしたんだよ美坂・・・」
「ふぇっ、えっ・・・」
「泣くなって・・・な?」
立石は抱き締めながら、そっと私の頭を撫でた。
その手は温かくて、優しい手だった。
大きいけど、何処か繊細さを感じるようなそんな不思議な手。
私は立石に抱き締められながら、今までにない一番の安心という安らぎに包まれた。
そして、気付いた。
「立石・・・ここ・・・」
「ん?どした?」
「電車の中っ・・・!離れろ馬鹿っ!」
「え?何を・・・って痛っ!!!」
見事私の右アッパーが立石のアゴをとらえた。
その瞬間、わずかながら周りから
「おぉ」という歓声が出て、ますます赤っ恥をかいたのは言うまでもない。



「・・・ふーん。じゃあちょっと喧嘩してからアンタも逃げてきたんだ」
「あぁ。さすがに二人じゃかなわねぇからな・・・」
「ふーん。馬鹿のアンタもそれくらい分かるんだ」
「助けてやったのに・・・失礼な」
「あぁ、ごめんごめん。ありがとう、立石」
「・・・そこまで素直に言われると照れるけど」
「何じゃそりゃ」
あははっと二人で短く笑った。
そして、一瞬の静寂があってから私は言った。






「大好きだよ、立石」



数週間後・・・

「おはよう君香!」
「うわっ!アンタ、ホントに最近テンション高いねぇ〜」
「えへへ。まぁねぇ〜」
「何じゃ、そりゃ・・・」
ふぅとため息をついて、私をじっと見た。
「な、何よ・・・」
ジロジロジロジロと私を見た君香はこう言った。
「アンタ、肌綺麗になったね」
驚いたようにいう君香の顔。
この時かなーりすっきりした。
やっと君香のこの顔が見れた。
あたしゃ幸せだよ・・・
心の中で呟いて、君香にジワリジワリと抱きついた。
「な、何すんのっ・・・!この馬鹿ゆう・・・」
「おーい!美坂ー!」
立石の声だ。
「あ、アンタが肌綺麗になったのってもしかして・・・」
そう言って、こっちに走ってくる立石を指さす。
私はにっこり微笑んだ。





そしてこう言った。




「まさかね」

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