「純樹ー。アンタ、さっきからゴロゴロしてるばっかでしょ。」
何が悪い。
「ちょっと聞いてる〜?」
どうだか。
「もう聞いてるんだったら返事ぐらいしてよね。」
やなこった。
「今からちょっとおつかいに行ってくれる〜?」
妹に行かせろ。
「・・・ここにお金置いとくから!宜しくね〜!」
フン。何で俺が行かなきゃいけないんだよ。
俺は今ダラダラしてて忙しいのに・・・返事してないから絶対ぇ行かねぇ。
「おい!俺は知らねぇぞ!美咲に行かせろよ!」
・・・返事がない。でも俺は絶対に行かない。返事してないんだから約束じゃあるめぇし・・・
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・そろそろ行くか。



お遣いで



「うぉっ!さみぃ!何でこんなクソ寒い日に買い物なんか・・・!」
俺は寒空の中、スーパーに向かって自転車を走らせていた。
夕方の日が俺の後ろに俺の影を作る。何だか馬鹿にされてるみたい。
自転車を急がせば急がす程、当たる風もキツくなってくる。
俺はそれこそ厚着しているがやっぱり寒いもんは寒い。
特に服の行き届いていない顔や手。
もう寒いというより痛い。手袋してくればよかったな・・・
そんな事を考えながら、俺は最寄のスーパーへと真っ直ぐに進んでいた。



「只今!タイムサービスを行っております!」
店内から聞こえてくる、宣伝アナウンス。
その後ろからか、スーパーならではの安っぽい音楽も聞こえてくる。
だが、タイムサービスの品を奪い合っているおばさん達にはどうも聞こえていないみたいだ。
何だか醜い。俺の母もこんな事やってるのかな・・・
少し心配しつつ、暖房のきいた暖かい店内へ入った。
開く自動ドア。気付かぬ主婦。
俺はそんな主婦達に半ば呆れながら横を通って、野菜売り場へ行った。
「えーっと・・・キャベツと・・・」
母に渡された何を買うか書かれたメモ用紙を左手に次々と品物を買い物かごへ入れていく。
入れていく度、重くなっていく黄色い買い物かご。
ようやく全部入れ終わってレジへ向かう。
40代後半ぐらいのおばさんが慣れた手つきで作業をこなしていく。
「1,210円になります。」
おばさんの声はどこか苛立っているように感じた。
やっぱり働くって単純な作業だけでも疲れてストレス溜まるんだな―――
俺みたいに家でノンビリ出来ないんだろうな。
そんな事を考えながらおばさんを見ているうちに、何だかそのおばあさんが可愛そうに思えてきた。
俺が暖房の効いた暖かい部屋で、ゴロゴロ寝転んで
好きな音楽を流して、好きな漫画を読んでいる間も
この人はずっとここでレジを打ち続けている。
自分が不甲斐無く思えてきた。
「ありがとうございました。」
その声も疲れている声だった。
俺は初めて働いている人に向かって
「お疲れ様です。」
と、軽く目礼した。
少しおばさんは驚いたみたいで、目を大きくして俺を少し見ていた。
俺は何だかそのおばさんの顔が見れなくて、さっさと入り口へ向かった。
そのおばさんが俺をどう感じたかは全く分からないけど
何となくおばさんは笑っているだろうと思った。本当に何となくなんだけど。



「ただいまー。」
「お帰りー!ありがとうねー。寒かったでしょー。」
母が台所で料理を作りながら声を上げる。
母に買ってきた品物の入った袋を渡した。
「ありがと。これで・・・を作れるわ。」
母は袋の中から色々なものを取り出して、また準備し始めた。
俺はいつものように部屋へと戻った。
そして、音楽をつけた。
ベッドへ寝転んだ。
読みかけの漫画をパラッと開いた。
いつもと同じ事をやっている筈なのに
いつものような気持ちにならないのは一体何故なんだろう。
漫画の内容が全く頭に入ってこない。
それに、音楽も耳から入ってきて耳から出る。そんな状態だ。
何も変わらないのに・・・
何故?



「あら純樹。どうしたの?ご飯は後少し待って。」
母が忙しそうに料理しながら、俺に話す。
「あ、いや・・・そうじゃなくて・・・」
「何?用ないなら自分の部屋戻って勉強でもしな。」




「手伝うよ。」





「え?」
「それ、俺手伝うよ。ホラ、貸して。」
「え・・・」
俺は母が切っていた長ネギの続きを切り始めた。
「アンタ・・・何かあった?」
普段全く手伝う気すら見せない俺が自ら率先して母の仕事を手伝っている。
そんな姿に驚いて母は目を丸くさせていた。
「たまにはいいだろ。迷惑か?」
「そうじゃないけど。あんた熱でもあるんじゃない?あぁ雨が降らなきゃいいけどねぇ。」
「しつこいなぁ!止めるぞ!」
「うそだって!ありがとねー!じゃあそれ宜しく。それ終わったら・・・」
俺は母の仕事を手伝った。母は俺の仕事を手伝った。
これは家族には当たり前のことなのかもしれないけど、
恥ずかしながら俺はそういった経験が一度もなかった。
「あ!火止めて!」
いつも母は苦しそうで
「りょうかーい。」
忙しそうなのに
「よしっ!じゃぁ完成!」
「うっしゃー!食うぞー!
何故か今日の母は幸せそうだった。
そんな母の幸せそうな顔を見て、俺もまた幸せになった。
今日の晩御飯は特製具沢山カレーライス。
それでは・・・
「「いただきまーす!」」

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