真夜中ランニング

「ハァハァハァ・・・」
真っ暗な公園の中、ひたすら走る私。
中学に入って、結局やりたいことも見つからなかった。
友達も居るかどうか分からない。
だから、部活にも入らなかった。
勉強も大してしなかった。
私は典型的な落ちこぼれだった。
そんな日々が辛くて私は夜に走るようになった。
別に昼に走っても良いのだけど、
同じ学校の人に見られたらシャクだからあえて夜走ってる。
別に目的なんてない。
ちょっとダイエットになればいいかなって思ってるくらい。
ただ私は走りたいだけ。
タイムなんてどうでもいい。
距離なんてどうでもいい。
私自身が納得いくまで私はただ何処までも走るだけ。
終わりのないこの闇の中を、
ひたすらこの脚で前へ進むだけ。
「あ、あれ矢田じゃねーの?」
あうっ。
あれやもしや学校のお調子者の川野瀬では?
一番見つかりたくない奴に見つかってしまった。
うー、ついていない。実に今日はアンガールズな日だ。じゃなくてアンラッキーな日だ。
その横に居るのは・・・
「ホントだ!何か走ってるし!」
川野瀬が金魚だとするとその糞役の市之瀬だ。
二人揃ってラブラブしてやがるなぁ、オイ。
モーホーさんだな。見ててなんだか恥ずかしいよ、あたしは。
私はその二人に気づきながらも、無視して走った。
後ろで何だか笑い声が聞こえた。
馬鹿にした、酷い笑い声。
私は少しだけペースを早くした。
こんな時間に、男二人でラブラブしてる奴の方が気持ち悪いんだよ、バーカ。
また出た私の悪い癖。
陰で人を馬鹿にする。
あぁ、こんなこと考えるのくだらない。
私は全速力で走り出した。



時は変わりゆくもの
でも、私は変わることはない―――
結局それが知らず知らずのうちに
何らかの結果に変わってしまったみたい。


あ れ か ら
ど れ く ら い の
時 が 経 っ た と 言 う の だ ろ う ?



「ん?」
腰の曲がった可愛いおじちゃんが休憩中の私を覗いてくる。
「アンタぁ、この前オリンピックで優勝した矢田選手によー似てるぞ?」
目を真ん丸くしてこりゃぶったまげた、とでも言いたげな顔だ。
私は軽い笑顔をおじちゃんに向け、
「やだなぁ。おじちゃん。よく間違えられるけど見てみなよ?実際全然違うよ?パッと見は似てるけどさ」
「そうか?・・・うーん。そう言われるとそんな気がしてきたな」
「でしょ?それにこんな・・・ホラ、見て。まだ朝の3時じゃん。こんな時間にあの有名な矢田選手が走ると思う?」
「そうだな!そりゃないわな!はっはっはっは!」
「でしょ!あははははは!!!」
霧がかった凄く大きい公園の中の一部に響く楽しい笑い声。
「んじゃ私そろそろ行くね」
「はいはい。頑張ってね。未来の矢田ちゃん」
「やだぁ」
軽く女の子ぶって私はおじちゃんにウィンクした。
やられたぁ、と小さな声が後ろから聞こえた。
うふふ、可愛いおじちゃんだこと。
少し微笑みながら私はまた前へ走り出した。

ふと、目をやるとベンチに座りながら煙草を吸って新聞を読んでるおじさん。
かっこいいな、畜生。私も横でやってやろうか。
くだらないことを考えながら、少し紳士っぽいおじさんの新聞紙を覗いてみた。
『オリンピックの熱、未だ冷めず!その中で矢田の失踪?』
失踪?誰が失踪だって?ちょっと休憩してんだよ、バーカ。
二十年たった今でも、人を軽く馬鹿にする癖は治っていない。
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