第二話 それぞれの心境

―――

アイツ結局どないしたんかなぁー。
ホンマに一人で立ち向かっていったんやろか。
アホな奴やで。あんな化け物に勝てる訳ないやんけ。
何で諦めへんねん。俺は・・・俺は絶対に行けへんぞ。
「でさぁー・・・なんだけどー・・・」
「おい!遊君!お客が入ってきたよ!接客接客!」
「え?あ・・・いらっしゃいませー!ご注文は何にしはりますかいなー?」
せや、俺は今日もバイトがあるんや。
一時的な感情に流されて、喧嘩なんかしたらアカン。
今は耐えなアカンのや。
朔・・・悪いけど俺は行かれへんわ。
行ったりたい気持ちはいっぱいやけど、やっぱりあの約束もあるしな。
もう喧嘩はせぇへんっていう約束がな。
「ふぅー・・・ちょい疲れたなぁー・・・んんっと。」
俺が拭った汗を吸い取ったのは、
四人で誓った時に買った、あのリストバンドやった。
知らず知らずのうちに使っとった。
っていうかやっぱり俺には外されへんかった。
やっぱり俺は・・・
でも・・・


―――

・・・ふん。
馬鹿な奴だ。
あんな小汚いリストバンド一つとられたところで何もないじゃないか。
しかも、相手はあの南中。
武器でも使わない限りあいつを倒すのはまず不可能だ。
そして、僕達にはブランクがある。
喧嘩なんて3年間全くしていない。
だから勝てる筈がない。
小さい頃から勝てない喧嘩はしないって決めてたじゃないか。
僕は絶対に行かないぞ。仮え、他の三人が行ったとしても・・・
「・・・君。正君!問い11!君の番だぞ!」
「え?あ、はい・・・えっと・・・」
そうだ。僕には勉強がある。
あんなばかばかしい喧嘩なんてしてられない。
良い高校に入って、良い大学に入って、良い会社に入って・・・
それが一番なんだ。喧嘩なんて人生で万に一つも必要のないものなんだ。
僕がするのは勉強だけでいいんだ。
そうだ。もう何も考えるんじゃない、僕・・・
僕は元々あんな連中とは違う人種で、エリートなんだ。
そうだ、馬鹿な事を考えるな。
僕は偉い。僕は賢い。僕が一番・・・
「・・・正君!聞こえてるのかね!?」
「え・・・あ、はい。スイマセン。」
しっかりするんだ。
僕の今しなければならない事は勉強だろ?
余計な事は考えるな。
そうだ。
鞄の中に入ってある、お茶を飲んで少し気持ちを落ち着けよう・・・
そう思って僕が飲んだお茶のペットボトルについていた、
こぼし拭きのタオルは、あのリストバンドだった。
仲間・・・
懐かしい言葉が僕の頭の中をグルグルと回っていた。
僕は・・・僕は・・・!


―――

・・・朔。
俺はもう喧嘩というものを忘れてしまった。
今という時間が楽しいんだ。
何事もないんだ。平和で苦しくもなくて痛くもない。
本当に・・・俺は今のままでいいんだ。
もう苦しむような事は御免だ・・・
許してくれ・・・朔・・・!
「うっ・・・うっ・・・!」
何故だかよく分からないが、俺の目からは涙がこぼれた。
片目しか見えない、俺の目から。
その目からこぼれた雫を拭ってたのは
アイツらと一緒に買ったリストバンドだった。
・・・もう捨ててしまおう。

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