「うわっ!アイツらだぞ!逃げろ!」
懐かしい。
「だっ、駄目だ!かなわねぇ!逃げろー!」
あの輝かしい時代が本当に懐かしい。
「でっ、出たー!」
と、言っても数年前の話だけど。
「無敵の四人組だ〜!」

friend ship 一話 すれ違う思い

「・・・っていう訳なんだよ!協力してくれよ!」
俺は必死に三人を説得していた。
しかし、三人は俺の話しを聞いてはいるものの
必死に聞いているという感じではなかった。
やっぱり返事も思った通りだった。
「なるほどなぁー。せやけど、ワイはその日バイトあるし・・・もう喧嘩はなぁ・・・」
そう言って煙草に火をつける遊。
「僕だって喧嘩は御免だよ。理論的に調べてみても、何らかの要因が重なった場合でないと・・・」
小難しいことをいい始めた正。
そして
「・・・話しにならねぇよ。」
そう言って去っていった守。
俺達の思いはバラバラだった。
昔はあんなに仲が良くて、思いも通じ合っていたのに。
全てはあの日の事件からっていう事は分かってるんだけど・・・

「ぐふっ!」
また一つの学校が俺達の拳によって消えた。
東小学校の無敵の四人組、小学6年生の遊、正、守。そして、俺。朔。
もう俺達の名前は色々な地区へ知れ渡っていた。
学校もまた混乱していた。保護者からの反発が半端なものでなかった。
「あんな不良生徒と一緒のクラスなんて御免です!今すぐ変えて下さい!」
「あの子達が何知ってるか先生方も知ってるでしょ?放っておく気ですか!?」
俺達が喧嘩をする度に、職員室中を支配する保護者からの苦情電話。
喧嘩と言っても俺達は学校の中で誰かをいじめる・・・なんて事は一度もしなかった。
いや、正確に言うとそれぐらいじゃ満足できなかった。
他の学校の番長と呼ばれて調子乗ってる奴をボコボコに叩きのめし、
どんどんと名を上げていく快感。
俺達はその快感に飲まれて、日々を喧嘩で過ごしていた。
学校内では特に迷惑はかけなかった。
遊は煙草を吸っていたので、注意こそされたがすぐに辞めたし(その場では
授業中だって静かだった。
俺達は喧嘩だけを望んでる、悪がき小学生だった。それもずるがしこい悪がき。
正は喧嘩こそしたが、成績も良かった。
家庭状況が厳しくて、これじゃ高校も推薦しかないと必死に勉強しているのである。
遊と俺はよく
「正〜。そんなに勉強しちゃ喧嘩弱くなっちゃうぜ」
と、馬鹿にしたものだ。
でも、正は
「うるさいな。僕は喧嘩だけの人間にはなりたくないんだよ」
とクールに返してくるのだった。
普通の言い方なら腹が立たないが、正の言い方は何か腹立たしい。
だから、俺と正はよく喧嘩した。
止めてるのはいっつも遊だった。
遊は5年生の時に大阪から引っ越してきた。だから関西弁。
「お前ら喧嘩はやめとかな本間アカンで!」
ベタな関西弁に思わず笑ってしまう俺と正。
遊は遊びまくってはいたが、厳しい状況を乗り越える術をたくさん知っていた。
まぁ世渡り上手って言い方が一番ピッタリかな。
守はとにかく喧嘩が強かった。
無口なんだけど、怒ったら本当に怖いし、強い。
けど、本当は凄く優しい。
ゲームしてる時なんか本当に無邪気に笑う。
俺はそんな守の笑顔が大好きだった。

夏休みのある日・・・

「おい、みんな〜!ちょい集合や!」
昼休み、屋上で4人が集まった。
「みんな今日予定はあるんか?」
遊がみんなの顔を伺う。
俺も正も守も頷いた。
「よっしゃ。前は正が塾やったから無理やった相手や。これは強いで。
 南小や。お前らも名前だけやったら知ってるやろ?」
南小。ガラの悪さだったら俺達も知っていた。
「そうか・・・とうとう南小とやれるんだな」
少し嬉しそうに闘志を燃やす守。
「相手は何人だ?」
正が訊いた。
「せや。もう最初っから全部話すで。
 この喧嘩はな。俺がしかけたもんちゃうんや。
 何と南小から喧嘩売ってきたんや!古い脅迫状みたいなやつでな。
 それが今日の4時。スーパー山田の裏駐車場や。」
「スーパー山田?そんなスーパーあったか?」
正がすぐに訊く。
「いや。潰れたんや。最近な。つまり・・・」
「助けて欲しくても助けが来ないって事だろ?」
俺が遊の後の台詞を補った。
「そういう事や。人数は未知数や。わかれへん。
 けど、小学生でそう何人も不良言うんはおるもんちゃうやろ。
 せやから、心配ない。何って言っても俺らは最強の四人組やからな!」
「おぉそーだーそーだー!!!」
士気は最高潮に盛り上がった。
俺達は階段を下りて、二人乗りして南小の居る駐車場へと向かった。

「ん?まだ誰もおらんやないかい。」
駐車場についたが、遊の言う通り誰も居なかった。
「まさかハッタリとか?」
正がちょっとムッとした様子で言う。
「いや、それはないやろ。まだ時間まで5分ぐらいあるしな。」
遊はチラッと腕時計を見た。
後五分。
と、目の前に一人のおかっぱ頭の奴が居た。
「ん?アイツか?」
守が鼻息を荒くさせて拳をパキパキと鳴らす。
「いや、待て待て。守。」
遊が止める。
「あんな頭で不良言うんはちょい難しいやろ。俺が訊いてくるわ。すんまへーん。」
遊が近づいた。
その時だった。
「・・・誰だ。」
「へ?いや、こっちが訊きたいんやけ・・・」
ボキィッ!
「うおぁっ!!」
「遊!!!」
いきなりおかっぱに殴られて倒れた遊の下へ近づく。
「大丈夫か?!」
遊の顔を見る。
それは全く大丈夫ではなかった。
鼻のが明らかにおかしい。
鼻血が出ているからこそ、少し分かりにくいが
鼻がへこんでいる。
「・・・粉砕してるぞ、こりゃ。」
正が遊の容態を見て呟いた。
「う・・・ぐ・・・」
うめく遊。こんな遊を見たのは初めてだ。
俺はそんな遊を見て動揺していた。
「遊・・・!遊・・・!」
俺は泣いていた。
遊がこんな哀れな姿で倒れている事に悲しみがこみ上げてきた。
「さ・・・く・・・」
「お前だな?南小の番長は。」
正が珍しく怒っていた。
「あぁ、そうさ。ところで何だ?その弱っちい猿は。」
「猿・・・!貴様っ!」
正が殴りかかった。
ところが
「ぐぁっ!あぐっ!うぁぁっ!!!」
正もやられた。
一瞬のうちにしてやられた。
「ちっ。手ごたえのねぇ・・・本当に貴様らが最近弱小潰して調子乗ってるって連中なんだろうなぁ!?」
「何だと・・・!?」
今まで遊を支えていた守がとうとうキレた。
「朔・・・やるぞ!」
「お、おぅっ!!うぉぁーーーーっ!!!」
そして、俺と守は殴りかかった。

気がついた時は病院だった。
全治一週間。
遊に至っては鼻の粉砕骨折。
正は首のねんざ。全治二週間。
そして、守は右目を失明。
「失明・・・!!!!」
俺と遊と正は驚いた。
「あぁ。良いところまでいったんだけどな・・・アイツには勝てなかった。」
「ごめん・・・俺がすぐやられちゃったから・・・」
俺が守に頭を下げる。
「辞めろよ、朔。俺は全然落ち込んじゃいねーし大丈夫だよ。またリベンジしないとな。」
守は早くもリベンジに向けて闘志を燃やしていた。
正も珍しく
「あぁ。今度は策も練ってキッチリと仕返ししてやる・・・!」
と燃えていた。
「ちょい待てや、お前ら。」
遊が言い放った。
俺達だけの病室が一瞬静かになった。
「考えろや、お前ら。俺の粉砕骨折なんかまだえぇ。
 日常生活に影響されるもんちゃうからな。
 それに、朔も正のもすぐ退院できるんや。問題ないやろ。
 けどな、守は失明やぞ!?目が見えへんのやぞ!?」
「いいんだよ、ゆ・・・」
「よーないわ守!俺らの怪我はすぐ治ってもお前の怪我は治らん!
 しかもその怪我させられた奴とまた喧嘩するやと!?
 お前らもアイツの力見たやろ!俺らは4人でアイツは一人やったんやぞ!?
 それでも俺らはこのザマやぞ!?」
誰も言い返さなかった。
誰も言い返せなかった。
遊の言ってる事は正しかった。
俺達の考えは間違っていた。
その結果がこの沈黙だった。
「・・・とにかくや。お前らが喧嘩する言うても俺が絶対にさせへん。
 いや、もう喧嘩自体させへん。俺も確かにリベンジはしたいけどな。
 もうお前らが傷つくんが嫌やねん。俺だけっていうのは無理なんやから。
 なぁ。俺らもうすぐで小学校も卒業や。
 卒業言うても俺らは何も変わってへん。
 残り少ない期間でなんか変わるー言うても無理やろ。
 けどな。喧嘩を卒業することは出来るんちゃうんか?」
遊のその台詞で、「無敵の四人組」の栄光は幕を閉じた。

そして、三年後。
俺は部活を終え、一人で家へ向かっていた。
俺はあの日以来、喧嘩はやめて真面目に生きていた。
普通の中学生らしく、普通の中学生と同じように生きていた。
しかし、あいつはまたやってきた。
「・・・よう。」
「ん?・・!お前は・・・!」
聞き覚えのある低い声。おかっぱの頭。
「そうさ。お前らを地獄へ叩き落したあの悪魔さ。」
「・・・!」
「安心しろ。俺は今お前をボコりに来たんじゃねーよ。」
「じゃあ何の用だ!」
「威勢だけは相変わらずだな。腕出せ。」
「何っ・・・?」
「腕を出せ。右腕だ。」
俺は今コイツと喧嘩をしても勝てる保障はどこにもなかったし、
喧嘩をしないと決めたからコイツの言うことを大人しく聞くほかなかった。
「・・・っと!」
男がいきなり俺の右腕にはめていたリストバンドをぶんどった。
「おい!返せよ!この野郎!!!」
「おぉっと。喧嘩していいのか?お前ぇー」
「・・・!」
「返して欲しかったらアイツら連れて、明日またあの場所へ来い。じゃあな」
男は去って行った。
俺のリストバントを持ったまま。
あのリストバントは・・・・

翌日。
「っていう訳なんだよ!協力してくれよ!」
三人に頼んでいた。
そして三人に断られた。
「あのリストバントに誓ったのを忘れたのかよ!『無敵は永遠』じゃねぇのかよ!
 俺は一人で行くからな!あばよ!裏切り者共!!!」
俺はやっきになって、そこを走り去った。
あんな薄情な奴らだったなんて思わなかった。
結局俺は一人で行く決心を固めた。
一方
「裏切り者共!!!」
そう言われた三人はその場で長い間立ち尽くしていた。

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